序文
「マンションにかかる外部管理者方式等に関するガイドライン」の要約
マンションの管理は、その居住者全員の生活の質や資産価値を保つために欠かせない重要な要素です。近年、マンションの高経年化や大規模化に伴い、管理の複雑さが増し、管理組合だけで対応することが困難になるケースが増えています。そんな中、国土交通省が作成した「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」は、外部専門家やマンション管理業者を管理者として活用する際の具体的な指針を提供し、適正なマンション管理を支援する重要なツールとなっています。
第1章 ガイドラインの位置づけ
第1章では、ガイドライン制定の背景と目的が明示されています。マンション管理適正化法の改正により、外部専門家を役員等として活用する必要性が高まる中、このガイドラインは区分所有者が管理者を適切に選任し、監視するための具体的な留意事項を提供しています。また、ガイドラインの改訂内容として、特にマンション管理業者を管理者とする場合の留意事項が整理されています。マンション管理の主体はあくまで管理組合であり、外部専門家を活用することで、管理の高度化と安定化を主な目的としています。
第2章 外部専門家による外部管理者方式等における留意事項
第2章は、主に既存マンションにおける外部専門家を管理者や役員として活用する際の具体的な進め方と手続きについて解説しています。外部管理者方式のニーズの見極めから、導入プロセス、契約書の内容や管理者の業務内容、さらには財産保護のための措置まで幅広くカバーしています。また、外部管理者がその地位を離れる場合の手続きや、新たな管理体制の準備についても詳述しています。これにより、管理組合が適切なガバナンスを維持しながら、外部の専門知識を活用することが可能となります。
第3章 マンション管理業者による外部管理者方式(管理業者管理者方式)における留意事項
第3章では、マンション管理業者が管理者となる場合の留意事項について詳述されています。既存マンションにおける導入プロセス、新築マンションにおける導入までのプロセス、そして管理者の業務内容や契約書に関する詳細な内容が含まれています。特に、多額の金銭事故や事件の防止策、事故発生時の対応策については具体的な指針が示されており、管理業者による適正な業務遂行と組合財産の保護が強調されています。 このブログでは、国土交通省が作成した「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を基に、マンション管理の実務における具体的な指針を解説していきます。このガイドラインを活用することで、管理組合は外部専門家や管理業者と協力し、適正で安定したマンション管理を実現するための重要なヒントを得ることができるでしょう。
第1章 ガイドラインの位置づけ
1. ガイドライン制定の目的
(1)ガイドライン制定の背景
平成28年3月にマンション管理適正化法が改正され、外部専門家が管理組合の管理者等に就任する場合の具体的な留意事項が示されました。これにより、区分所有者が管理者の選任や業務の監視を適正に行うことが求められるようになりました。また、標準管理規約の改正により、外部専門家が管理組合の役員に就任できるようになりました 。
(2)外部専門家を役員等として活用する必要性
マンションの高経年化や大規模化により管理が困難になる中、外部専門家の活用が重要視されています。外部専門家は広範な知識を持ち、管理組合の運営に直接携わることで、管理の高度化・複雑化に対応することが期待されています 。
2. ガイドラインの改訂―マンション管理業者を管理者とする方式における留意事項の整理
既存マンションにおける役員の担い手不足や新築マンションにおける管理業者の管理者就任が増加する中で、外部管理者方式の留意事項が整理されました。管理業者が管理者となる場合には、管理組合と管理業者間の利益相反の防止や適正な業務監視が求められます 。
3. マンション管理の主体について
マンション管理の主体は区分所有者で構成される管理組合であり、共用部分の維持管理責任を負います。適正な管理のためには、外部専門家を活用する場合でも、区分所有者が管理者の選任や監視を行うことが重要です 。
4. 本ガイドラインの対象及び構成
(1)ガイドラインを活用いただく方
本ガイドラインは、既存マンションの管理組合や新築マンションの購入を検討している方、外部専門家、管理業者、分譲業者などを対象としています 。
(2)ニーズが想定されるマンションのタイプ
主に自己居住用のマンションを対象としていますが、投資用マンションやリゾートマンションにも参考になります 。
(3)管理組合の管理方式のパターンとの関係
管理組合の管理方式には複数のパターンがあり、それぞれに応じた外部専門家の役割が異なります。具体的には、理事会が設置されている場合や管理者が理事会の役員に就任する場合などがあります 。
第2章 外部専門家による外部管理者方式等における留意事項
- 1.本省の対象
- 2.既存マンションにおける外部管理者方式導入の進め方
- 3.新築マンションにおける外部管理者方式導入までのプロセス
- 4.管理者の業務内容・契約書等
- 5.管理者がその地位を離れる場合について
- 6.管理者による適正な業務遂行の確保・組合財産の保護のための措置
1. 本章の対象
本章は、主として管理組合が外部専門家を「管理者」として活用する場合(外部専門家による外部管理者方式)における実務上の留意点や想定される運用例をまとめたものです。外部専門家には、マンション管理士、弁護士、公認会計士などが含まれ、マンション管理における一定の専門的知識を有する者が想定されています。外部専門家を管理者以外の役員(理事)として活用する場合についても、本ガイドラインは参考となります。
(1) 外部専門家の位置付け
外部専門家は、管理組合が管理者または理事長として活用することが主に想定されています。具体的には、マンション管理士、弁護士、公認会計士などの専門家が含まれます。これらの専門家は、マンション管理に関する専門知識を持ち、管理組合の運営や助言を行うことが求められます。
(2) 本章を活用いただく方
本章は、既存マンションにおいて管理組合の担い手不足への対処を理由として外部専門家の活用を検討している管理組合の方や、新築マンションの購入を検討している方、外部専門家や管理業者、分譲業者など、外部管理者方式のマンションに関わる様々な方を対象としています。
(3) ニーズが想定されるマンションのタイプ
本章は主に、外部専門家が管理者の地位にある自己居住用のマンションを対象としていますが、投資用マンションやリゾートマンションにも参考となる内容を含んでいます。これにより、さまざまなタイプのマンションに対応できるよう配慮されています。
(4) 管理組合の管理方式のパターンとの関係
管理組合の管理方式にはいくつかのパターンがあり、それぞれ外部専門家の位置付けや役割に相違が生じます。本章では主に、外部専門家が理事会における「管理者及び理事長」に就任するパターン、外部管理者・総会監督型のパターンを前提として例を示しています。また、理事会が設置されている方式や、管理業者の従業員が管理者となる場合についても、本章は参考となります。
2. 既存マンションにおける外部管理者方式導入の進め方
本章では、既存マンションに外部管理者方式を導入する際の具体的な進め方と手続について詳述しています。
(1) 外部管理者方式のニーズの見極め
まず、外部管理者方式の導入が必要かどうかを見極めるために、マンションの管理体制や課題を評価します。管理組合が外部管理者方式を検討する背景には、担い手不足や専門知識の欠如が挙げられます。管理組合が自力で対応できない場合、外部専門家(マンション管理士、弁護士など)の支援を受けることも検討します 。
(2) 既存マンションにおける外部管理者方式導入までの進め方・手続
①外部管理者方式の導入までのプロセスの全体像
外部管理者方式の導入には、段階的なプロセスが必要です。主な流れとして、現体制の理事等が主体となり、区分所有者への説明会等で情報共有しながら、メリット・デメリットを十分に検討し、総会での導入推進決議を経て、候補者の選定や必要な細則・契約・予算の案を検討し、総会決議で正式に決定します 。
②外部専門家の選任方法に係る細則等
外部専門家の選任は総会で行われ、管理規約で定められた手続きに従います。標準管理規約では、理事会で役職を決定し、細則において外部専門家の資格要件や理事会運営に関する特別のルールを定めることが推奨されています 。
③管理者業務を担う外部専門家による説明
外部管理者方式を採用する際には、理事会を廃止する可能性があるため、管理方式に大きな影響を与えます。そのため、外部専門家は説明会などで区分所有者に対し、管理者の権限、総会決議事項、管理規約の変更点などを説明することが望まれます 。
④新たな管理方式の導入に向けた検討開始
外部管理者方式の導入に向けた検討は、理事会が中心となります。外部専門家から助言を受けることも検討し、導入検討段階で区分所有者に周知・広報することが重要です 。
⑤候補者の選定
外部管理者の候補者選定は、管理組合が情報収集を行い、適切な候補者を選ぶことが求められます。専門家派遣団体や自治体のマンション相談窓口などから情報を得ることも有効です 。
⑥区分所有者に対する説明会等
導入推進決議の前に、区分所有者向けに説明会を開催し、議案やスケジュール、諸条件について説明・質疑を行う場を設けます 。
⑦総会における導入推進決議
導入推進決議は法的に必須ではありませんが、具体的な手続を進める方向性を確認するために行います。候補者と理事会との間で契約書等の詳細な調整を進める前に行うことが望まれます 。
⑧総会における導入決議
正式に外部管理者方式を導入するためには、管理者等の選任、管理規約の改正、細則の制定・改正、契約書、報酬に関する予算などについて総会決議を経る必要があります 。
3. 新築マンションにおける外部管理者方式導入までのプロセス
本節では、新築マンションに外部管理者方式を導入する際の具体的なプロセスと、既存マンションとの違いについて詳述しています。
(1)既存マンションにおける外部管理者方式との違い
新築マンションでの外部管理者方式の導入は、既存マンションとはいくつかの点で異なります。新築マンションの場合、購入者が管理に対する関与の程度が低下しやすく、管理組合が主体となる管理運営の理解が不十分になるおそれがあります。また、既存マンションでは導入前に区分所有者間で議論を重ねて決定することができますが、新築マンションではそのような議論の場がないため、購入者は購入時点までに自ら慎重に検討する必要があります。
(2)分譲契約締結前までのプロセス
マンション分譲時には、分譲業者が重要事項説明書の附属資料として管理者業務委託契約書等を示すことが求められます。しかし、単に書面を示すだけではなく、より丁寧な情報提供を行うことが重要です。具体的には、分譲業者が詳細な書面を交付し、口頭でも説明を行うことが推奨されます。さらに、必要に応じて、外部専門家が直接購入希望者に説明を行うことも望ましいです。
(3)分譲契約締結時及びその後のプロセス
分譲契約締結時には、購入者に外部管理者方式の導入についての同意を得る必要があります。これは、管理規約案に含まれる形で行われることが多いです。購入者は、契約締結時に外部管理者方式について説明を受けているものの、実際に居住を開始する際には、管理者たる管理業者から再度詳しい説明を受けることが重要です。設立総会やそれに近いタイミングで、外部管理者方式のメリットやデメリット、管理組合の役割について再確認する機会を設けることが推奨されます。
4. 管理者の業務内容・契約書等
本節では、管理者の業務内容や契約書に関する具体的な内容について詳述しています。
(1) 契約・管理規約等の内容
①管理者業務委託契約書について
管理者業務委託契約書は、管理者の権利と義務を明確化するために重要です。区分所有法第28条に基づき、管理者は集会での決議を実行し、管理規約で定めた行為を行う権利を持ちます。この契約書は、管理者の受任者としての地位を明確にするために必要です。
②管理者業務委託契約における規定事項
管理者業務委託契約書には、以下のような主な規定事項を含むことが望まれます:
契約当事者
管理者の選任および解任手続き
任期およびその更新方法
管理者の権限と義務
報酬および経費の支払い方法
区分所有者に対する説明義務。
(2) 管理者の業務内容について
管理者の主な業務内容は、マンションの運営管理全般にわたります。具体的には、共用部分の維持管理、修繕計画の策定と実施、予算の管理、総会の開催および議事録の作成、そして区分所有者への情報提供などが含まれます。
(3) 管理規約の規定事項について
①総論
外部管理者方式の導入にあたっては、標準管理規約の単なる読み替えでは不十分です。管理者の権限、区分所有者の権利義務、総会の決議事項など、適切なルールを定める必要があります。
②個別の規定事項について
管理者の選任・解任:管理規約には管理者の選任・解任の手続きが明記されており、適切な管理者を選ぶための基準も定められています。
管理者の任期:管理者の任期は通常1年とされ、毎年総会で継続・不継続の決議を行うことが推奨されます。
管理者の欠格条項:管理者として不適切な者が業務を行うことを防ぐため、欠格条項を設けることが重要です。
管理者の誠実義務:管理者には誠実に職務を遂行する義務があり、利益相反行為を避けるための規定が含まれます。
総会決議事項:重要な事項については、総会での決議を経ることが必要です。これにより、区分所有者の意思を反映させることができます。
管理者の権限・義務:管理者の具体的な権限と義務についても詳細に定められています。
組合員の総会招集権:外部管理者方式では、総会招集権の行使が重要となるため、適切な規定を設けることが推奨されます。
マンション管理への区分所有者の関与:区分所有者がマンション管理に関与できる仕組みを整えることが重要です。
5. 管理者がその地位を離れる場合について
本節では、管理者がその地位を離れる際の具体的な場合やプロセス、新しい管理体制の準備について詳述しています。
(1)どのような場合に管理者がその地位を離れるかについて
管理者がその地位を離れる場合としては以下のようなケースが考えられます:
辞任:管理者が自らの意思で辞任する場合
再任議案の否決:総会で再任が否決された場合
解任:総会で解任決議が成立した場合
訴訟:訴訟上の解任請求が認められた場合
これらのいずれの場合でも、外部管理者方式を継続するか、理事会方式に変更するかを検討する必要があります 。
(2)管理者がその地位を離れる場合のプロセス
管理者がその地位を離れる際のプロセスは次の通りです:
辞任や再任議案の否決:管理者が辞任を申し出た場合や再任が否決された場合、現管理者は新しい管理者が決定するまでの3か月間、継続して管理業務を行うことが望ましいとされています。これにより管理業務の継続性が確保されます 。
解任や訴訟上の解任請求:管理者が解任された場合、速やかにその地位を失い、新しい管理者の選任までの期間は暫定的な管理者が必要となります 。
(3)新しい管理体制の準備について
新しい管理体制への移行準備は次の手順で行います:
検討と決定:外部管理者方式を維持するか、理事会方式に変更するか、そして新しい管理者は誰が務めるのかを検討します。必要に応じて臨時総会を開催し、区分所有者に説明し、意見を聴取することが重要です 。
暫定措置:再任議案の否決や辞任の場合は、新管理者が決定するまで旧管理者が引き続き業務を行うことが望まれます。解任の場合は直ちに地位を失わせ、暫定的な管理者が業務を担当します 。
6. 管理者による適正な業務遂行の確保・組合財産の保護のための措置
本節では、管理者が適正な業務を遂行し、管理組合の財産を保護するための具体的な措置について詳述しています。
- (1)概要
- (2)管理者による独断専横的行為・管理組合と管理者間の利益相反の防止
- (3)多額の金銭事故・事件の防止
- (4)事故・事件が発生した場合における対応及び組合財産の保護措置
- (5)事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置
(1)概要
管理者による適正な業務遂行と組合財産の保護を確保するための措置は、以下の項目に分類されます:
独断専横的行為の防止
利益相反の防止
多額の金銭事故・事件の防止
事故・事件が発生した場合の対応及び財産保護。
(2)管理者による独断専横的行為・管理組合と管理者間の利益相反の防止
①管理者の権限の制限
管理者等への議決権の非付与:外部専門家である管理者や監事に議決権を付与しないことで、独断的な意思決定を防ぎます。
管理者の権限の制限:一定の重要な行為については管理規約や細則により代理権を制限します。
②利益相反取引等管理組合の利益を損なう行為への対応
利益相反取引等にかかるプロセスの整理:事業者選定の透明性を確保し、利益相反の防止策を講じます。
利益相反取引等の制限:取引に関するルールを整備し、管理者が適切に取引を行うようにします。
管理者業務に係る一定の裁量の確保・緊急時等における取引の機動性の確保:緊急時には総会の決議を経ずに取引を行うことを可能にし、機動性を高めます。
決算における利益相反取引等についての適切な開示:利益相反取引の内容を決算で明示し、透明性を確保します。
大規模修繕工事の発注における発注先選定等の透明性確保:発注先の選定プロセスを明確にし、透明性を高めます。
管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止:管理者が不当な利益を得ないようにします。
③管理者に対する監視・チェック体制
監事の選任及び担い手:監事は総会の決議により選任し、独立性を確保します。
監事の権限・職務について:監事は管理者の業務執行を監査し、法令違反や管理規約違反がないか確認します。
管理者から監事や区分所有者に対する定期報告:管理者は業務執行状況を定期的に報告し、透明性を確保します。
④管理者の解任を可能としておくための措置
管理規約における管理者名等の固有名詞の排除:管理者の解任が困難にならないよう、規約には固有名詞を記載しないようにします。
解任に向けた総会の招集要件の緩和:解任を容易にするため、総会招集要件を緩和します。
区分所有者名簿等へのアクセスの確保:必要な書類やデータに区分所有者がアクセスできるようにします。
(3)多額の金銭事故・事件の防止
①口座の適切な管理
財産の分別管理の徹底:管理組合の財産と管理者の財産を分別して管理します。
通帳・印鑑等の保管体制:通帳と印鑑を同一主体が保管しないようにし、監事が管理することが望ましいです。
修繕積立金の積立方式の工夫:現金化が困難な方式を採用し、金銭事故を防ぎます。
現金の取扱いの禁止:現金の取り扱いを禁止し、全ての取引を口座振替や振込で行います。
②適切な財産管理状況の把握
監事等による組合財産状況に関する監査及び総会等への報告:監事は定期的に組合財産を監査し、総会に報告します。
通帳原本等の定期的な確認:通帳や印鑑の保管状況を定期的に確認します。
(4)事故・事件が発生した場合における対応及び組合財産の保護措置
①外部管理者方式における訴訟追行の問題
管理者による訴訟代理の問題について:管理者が弁護士でない場合、訴訟代理が適切かどうかを慎重に判断します。
管理者との間で利益相反類似の状況が発生した場合について:利益相反が発生する可能性がある場合、管理者は適切に対応します。
(5)事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置
①保険・補償制度の活用
役員の過失による損害(賠償責任保険等):管理者に対して賠償責任保険への加入を義務付けます。
故意・重過失等による損害:故意や重過失による損害発生時の賠償措置を検討します。
②紛争解決手続の活用
トラブル発生時における相談先について:適切な相談先を設け、迅速な対応を図ります。
裁判以外の解決手法:訴訟以外の紛争解決手続を活用します。
第3章 マンション管理業者による外部管理者方式(管理業者管理者方式)における留意事項
1.本章の対象
2.既存マンションにおける外部管理者方式導入の進め方
3.新築マンションにおける外部管理者方式導入までのプロセス
4.管理者の業務内容・契約書等
5.管理者がその地位を離れる場合について
6.管理者による適正な業務遂行の確保・組合財産の保護のための措置
1.本章の対象
(1)管理業者の位置付け
本章は、管理業者を「管理者」として活用する場合(管理業者管理者方式)における実務上の留意点や運用例をまとめたものです。管理業者が管理者としての地位と管理業者としての地位の両方を有する場合が多く見られますが、管理者としての地位のみを有する場合についても本章は参考になります。
(2)本章を活用いただく方
本章は、既存マンションにおいて外部管理者方式を検討している管理組合や新築マンションの購入を検討している方、外部専門家や管理業者、分譲業者など、外部管理者方式のマンションに関わる様々な方々を対象としています。
(3)ニーズが想定されるマンションのタイプ
本章は主に自己居住用のマンションを対象としていますが、投資用マンションやリゾートマンションにおいても参考になります。
(4)管理組合の管理方式のパターンとの関係
管理組合の管理方式にはいくつかのパターンがあり、それぞれに応じた適切な管理方法を選択することが重要です。具体的な例を示しつつ、各方式に適した運用を解説します。
(5)管理者と管理業者との関係
管理者と管理業者が同一である場合、その役割分担と責任範囲を明確にし、適切な管理運営が行われるようにすることが求められます。
2.既存マンションにおける外部管理者方式導入の進め方
(1)外部管理者方式のニーズの見極め
管理組合のニーズを見極め、外部管理者方式の導入が必要かどうかを判断します。専門家の助言を受けながら、導入のメリット・デメリットを十分に検討します。
(2)既存マンションにおける外部管理者方式導入までの進め方・手続
外部管理者方式の導入プロセスは、段階的なアプローチが必要です。以下のステップに沿って進めます:
①外部管理者方式の導入までのプロセスの全体像
現体制の理事等が主体となり、区分所有者への説明会等で情報共有しながら、総会での導入推進決議を経て候補者を選定し、総会での導入決議を行います。
②管理者業務を担う管理業者による説明
管理業者は、外部管理者方式の導入に際して、区分所有者に対して説明を行い、具体的な運用方法や契約内容について詳細に伝えます。
③新たな管理方式の導入に向けた検討開始
理事会が中心となり、外部管理者方式の導入検討を開始し、区分所有者に対して周知・広報を行います。
④候補業者の選定
管理組合が情報収集を行い、適切な管理業者を候補として選定します。専門家の助言を受けることも有効です。
⑤区分所有者に対する説明会等
導入推進決議前に、区分所有者向けの説明会を開催し、議案やスケジュールについて説明・質疑を行います。
⑥総会における導入推進決議
導入推進決議は、具体的な手続きを進める方向性を確認するために行います。候補者と理事会との間で契約書等の詳細な調整を進める前に行うことが望まれます。
⑦総会における導入決議
正式に外部管理者方式を導入するためには、管理者の選任、管理規約の改正、契約書の締結、予算の確保について総会決議を経る必要があります。
3.新築マンションにおける外部管理者方式導入までのプロセス
本節では、新築マンションに外部管理者方式を導入する際の具体的なプロセスと、既存マンションとの違いについて詳述しています。
(1)既存マンションにおける外部管理者方式との違い
新築マンションの場合、管理組合が形成される前に外部管理者方式を導入することが可能です。既存マンションと異なり、分譲業者が主体となって管理規約案を作成し、購入者に対して説明を行うため、導入のプロセスが異なります。購入者は、契約締結時に外部管理者方式についての情報を得ることができるため、購入前に導入の可否を判断する機会があります 。
(2)分譲契約締結前までのプロセス
分譲契約締結前に、分譲業者は重要事項説明書の附属資料として管理者業務委託契約書等を提示します。この際、単に書面を示すだけでなく、口頭での説明や質問に対する回答を行うことが求められます。購入希望者が十分に理解し、外部管理者方式の導入を検討できるよう、詳細な情報提供が推奨されます。また、必要に応じて、マンション管理士や自治体の相談窓口から中立的な助言を受けることも有効です。
(3)分譲契約締結時及びその後のプロセス
分譲契約締結時には、購入者に外部管理者方式の導入についての同意を得る必要があります。これは、管理規約案に含まれる形で行われることが一般的です。購入者は契約締結時に外部管理者方式についての説明を受け、その後、管理者たる管理業者から再度詳細な説明を受けることが重要です。設立総会やその近いタイミングで、外部管理者方式のメリットやデメリット、管理組合の役割について再確認する機会を設けることが望まれます。
4.管理者の業務内容・契約書等
本節では、管理者の業務内容や契約書に関する具体的な内容について詳述しています。
(1)契約・管理規約等の内容
①管理者業務委託契約書の体裁
管理者業務委託契約書は、管理者の権利と義務を明確化するために重要です。区分所有法第28条に基づき、管理者は集会での決議を実行し、管理規約で定めた行為を行う権利を持ちます。この契約書は、管理者の受任者としての地位を明確にするために必要です。
②管理者業務委託契約における規定事項
管理者業務委託契約書には、以下のような主な規定事項を含むことが望まれます:
契約当事者
管理者の選任および解任手続き
任期およびその更新方法
管理者の権限と義務
報酬および経費の支払い方法
区分所有者に対する説明義務。
(2)管理者の業務内容について
管理者の主な業務内容は、マンションの運営管理全般にわたります。具体的には、共用部分の維持管理、修繕計画の策定と実施、予算の管理、総会の開催および議事録の作成、そして区分所有者への情報提供などが含まれます。
(3)管理規約の規定事項について
①総論
外部管理者方式の導入にあたっては、標準管理規約の単なる読み替えでは不十分です。管理者の権限、区分所有者の権利義務、総会の決議事項など、適切なルールを定める必要があります。
②個別の規定事項について
管理者の選任・解任:管理規約には管理者の選任・解任の手続きが明記されており、適切な管理者を選ぶための基準も定められています。
管理者の任期:管理者の任期は通常1年とされ、毎年総会で継続・不継続の決議を行うことが推奨されます。
管理者の欠格条項:管理者として不適切な者が業務を行うことを防ぐため、欠格条項を設けることが重要です。
管理者の誠実義務:管理者には誠実に職務を遂行する義務があり、利益相反行為を避けるための規定が含まれます。
総会決議事項:重要な事項については、総会での決議を経ることが必要です。これにより、区分所有者の意思を反映させることができます。
管理者の権限・義務:管理者の具体的な権限と義務についても詳細に定められています。
組合員の総会招集権:外部管理者方式では、総会招集権の行使が重要となるため、適切な規定を設けることが推奨されます。
マンション管理への区分所有者の関与:区分所有者がマンション管理に関与できる仕組みを整えることが重要です。
5.管理者がその地位を離れる場合について
(1)管理者がその地位を離れる場合のプロセス
管理者がその地位を離れる場合として考えられるのは以下のケースです:
辞任:管理者が自発的に辞任する場合
再任議案の否決:再任議案が総会で否決された場合
解任:総会で解任が決議された場合
訴訟上の解任請求:裁判所で解任請求が認められた場合
これらのいずれの場合でも、外部管理者方式を維持するか、理事会方式に変更するかを検討する必要があります 。
(2)新しい管理体制の準備について
新しい管理体制への移行準備は次のように進められます:
検討と決定:外部管理者方式を続けるか、理事会方式に変更するか、そして新しい管理者を誰にするかを検討します。マンションの実情に応じて、必要に応じて臨時総会を開催し、区分所有者の意見を反映させることが重要です 。
暫定措置:再任議案の否決や辞任の場合、新管理者が選任されるまでの期間(通常は3か月程度)、旧管理者が引き続き業務を行うことが望ましいです。解任の場合、速やかに管理者の地位を喪失させ、新管理者が決定するまでの暫定的な管理体制を整えることが必要です 。
こうした新管理体制への移行準備については、監事が中心的な役割を果たします。監事は管理者の職務執行を監視し、必要に応じて区分所有者への説明会を実施し、新規約の変更や新管理者の選任を含む臨時総会の準備を行います 。
6.管理者による適正な業務遂行の確保・組合財産の保護のための措置
本節では、管理者が適正な業務を遂行し、管理組合の財産を保護するための具体的な措置について詳述しています。
(1)概要
管理者の適正な業務遂行と組合財産の保護を確保するための措置は、以下のように分類されます:
未然防止:管理者による独断専横的行為や管理組合と管理者間の利益相反の防止監視・チェック体制:管理者に対する監視・チェック体制の構築
財産保護:組合財産の保護と適切な管理
対応策:トラブル発生時の対応策の整備 。
(2)管理者による独断専横的行為・管理組合と管理者間の利益相反の防止
①管理者の権限の制限
管理者等への議決権の非付与:管理者や外部専門家である監事に議決権を与えないことで、外部の影響を排除し、区分所有者の意思が反映されるようにします 。
管理者の権限の制限:重要な行為に関わる代理権を制限することで、管理者の独断的な意思決定を防ぎます 。
②利益相反取引等管理組合の利益を損なう行為への対応
利益相反取引等にかかるプロセスの整理:事業者の選定プロセスを透明化し、利益相反を防ぐためのルールを整備します。例えば、管理者が自身の利害関係者に対して発注を行う場合、そのプロセスを明確にし、適正な手続きを経ることが必要です 。
利益相反取引等の制限:管理組合と管理者間で利益相反が発生しないよう、取引に関するルールを設定します 。
緊急時等における取引の機動性の確保:緊急時には総会の決議を経ずに取引を行えるようにし、迅速な対応を可能にします 。
管理組合からの報酬以外のリベート等の収受禁止:管理者が不当な利益を得ないよう、リベートの収受を禁止します 。
③管理者に対する監視・チェック体制
監事の選任及び担い手(外部専門家と区分所有者):監事は総会で選任され、管理者と独立した立場から業務を監視します 。
監事の権限・職務について:監事には、管理者の業務執行を監査する権限が与えられ、必要に応じて臨時総会を招集する権限も持たせます 。
管理者から監事や区分所有者に対する定期報告:管理者は業務執行状況を定期的に報告し、監事や区分所有者が状況を把握できるようにします 。
④管理者の解任を可能としておくための措置
管理規約における管理者名等の固有名詞の排除:管理者名を規約に記載せず、解任が容易に行えるようにします 。
解任に向けた総会の招集要件の緩和:解任を容易にするため、総会招集の要件を緩和します 。
区分所有者名簿等へのアクセスの確保:必要な書類やデータに区分所有者がアクセスできるようにします 。
(3)多額の金銭事故・事件の防止
本節では、管理組合が多額の金銭事故や事件から財産を守るために講じるべき具体的な措置について詳述しています。
①口座の適切な管理
1)財産の分別管理の徹底
管理組合の財産と管理者の固有財産は必ず分別して管理する必要があります。特に管理業者が管理者となる場合、管理組合の財産を管理業者の財産とは明確に区別することが重要です。また、預金口座の名義は管理組合に帰属する財産であることが一見して明らかになるように設定することが推奨されます。
2)通帳・印鑑等の保管体制
通帳と印鑑を同一主体で保管しないようにするため、管理組合の預金口座の印鑑は監事が保管することが望ましいとされています。特に修繕積立金等の保管口座については、厳格な管理が求められます。
3)修繕積立金の積立方式の工夫
修繕積立金は特に多額であり、現金化が容易であると金銭事故のリスクが高まります。現金化が困難な方式を活用することで、事故のリスクを低減できます。例えば、「マンションすまい・る債」を利用する場合、総会議事録等の書類を提供することで中途換金が認められる仕組みを利用することが考えられます。
4)現金の取扱いの禁止
現場での金銭事故を防止するためには、管理費や修繕積立金、使用料の徴収、物品購入、工事発注など、出納はすべて口座振替や振込で行い、現金の取扱いを禁止することが推奨されます。近年では電子決済の活用も増えてきています。
②適切な財産管理状況の把握
1)監事等による財産の状況に関する監査及び総会等への報告
管理者から監事に対して財産の状況を適切に報告し、監事は定期的な監査を行う必要があります。監査は月次、半期、決算期ごとに行い、総会で適切に報告することが求められます。
2)通帳原本等の定期的な確認
監事は通帳や金融機関発行の預金残高証明書の原本を定期的に確認し、会計帳簿との整合性を確認することが必要です。通帳原本への記帳の定期的な実施など、監査業務のルール化も考えられますが、単にルールに従うだけで監事としての責任を果たしたことにはなりません。
(4)事故・事件が発生した場合における対応及び組合財産の保護措置
①外部管理者方式における訴訟追行等の問題
管理業者とのトラブルが発生した場合、最終的な解決手段は民事訴訟です。区分所有法上、管理者が管理組合側を代表して原告・被告となる規定がありますが、管理者自身が被告となる場合の対応が必要です。例えば、管理者の解任請求訴訟や仮管理者選任の仮処分申立てなどが考えられます。
(5)事故・事件が起きてしまった場合の組合財産の保護措置
①保険・補償制度の活用
役員の過失による損害に対する賠償責任保険への加入を義務付けることで、組合財産を保護します。また、故意や重過失による損害についても、対応する給付制度への加入や管理者の財産的基礎を確認し、賠償が適切に行われるようにすることが重要です。
②トラブル発生時における相談・裁判外紛争解決手続の活用
トラブルが発生した場合には、監事への情報提供や外部機関への相談が推奨されます。また、紛争内容や対立の程度に応じて、裁判外紛争処理手続(ADR)の活用も考えられます。