建替え手続きの概要(第62条)
区分所有法における「建て替え決議」は、マンションや集合住宅が老朽化や災害によって修繕が困難な状態に陥った際、住民たちが新たな建物の建設を決定するための重要な手続きです。このプロセスは、各区分所有者の生活や財産に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、法律上、厳密な要件と手続きが定められています。
まず、建て替え決議を行うためには、区分所有者および議決権の各4/5以上の多数の賛成が必要とされます。この高いハードルは、建て替えが持つ重大性を反映しており、慎重な合意形成を促すものです。また、建て替えの際には、以下の具体的な事項を明確に定める必要があります:
- 再建建物の設計の概要:新しく建てられる建物の基本的な設計や特徴。
- 建物の取壊しおよび再建に要する費用の概算額:解体と新築にかかるおおよその費用。
- 費用の分担に関する事項:各区分所有者が負担する費用の割合や方法。
- 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項:新しい建物における所有権の割り振り。
これらの事項は、各区分所有者の公平性を確保するために、慎重かつ明確に定められるべきです。
建て替え決議に至る過程でも、詳細な手続きが求められます。集会の招集通知は、会日の少なくとも2ヵ月前に発出し、その際には建て替えの必要性、建て替えを行わない場合の維持・回復費用、既存の修繕計画、そして修繕積立金の状況など、判断に必要な情報を十分に提供することが義務付けられています。さらに、集会の少なくとも1ヵ月前までに説明会を開催し、区分所有者に対して建て替えの詳細や影響を説明することが求められます。
建て替え決議に賛成しなかった区分所有者に対しては、建て替えへの参加を促すための書面による催告が行われ、催告を受けた者は2ヵ月以内に参加の意思を回答しなければなりません。回答しなかった場合や参加を拒否した場合、建て替え参加者や指定された買受人から、時価での売渡請求を受ける可能性があります。この売渡請求により、非参加者は所有する区分所有権および敷地利用権を売却することとなります。ただし、生活上の著しい困難が生じる場合など、正当な理由が認められるときは、裁判所に対して建物の明渡し期限の延長を求めることができます。
さらに、建て替え決議後、2年以内に建物の取壊し工事が着手されない場合、売渡請求を受けた元の所有者は、支払われた代金を返還して所有権を再取得するための再売渡請求を行う権利があります。ただし、工事が遅れた正当な理由がある場合はこの限りではありません。 このように、区分所有法の「建て替え決議」は、各区分所有者の権利と利益を最大限に保護しながら、円滑かつ公平な建て替えプロセスを実現するための詳細な規定が設けられています。これらの手続きと要件を遵守することで、住民たちは安心して新たな生活環境の構築に向けた取り組みを進めることができます。
建替え手続きの各項目
建替え決議(62条)
- 決議要件(62条1項)
- 集会において、区分所有者および議決権の各4/5以上の多数で建物の取り壊しと新築を決議できる。
- 建替え決議は、費用や生活面に大きく影響を与えるため、厳しい決議要件が設けられている。
- 使用目的の同一性は不要で、分譲マンションを商業ビルに建て替えることも可能。
- 「隣接地に建て替える」場合や、建物を取り壊して更地にする場合は全員の合意が必要。
- 全部滅失した場合、区分所有関係が消滅するため、区分所有法の適用がなくなり、敷地共有者全員の合意が必要。
- 政令指定災害で全部滅失した場合は、被災マンション法により敷地共有者等の議決権の4/5以上の多数で再建決議が可能。
- 決議事項(62条2項)
- 建替え決議では、次の事項を定めなければならない:
- 再建建物の設計の概要
- 建物の取壊しおよび再建建物の建築に要する費用の概算額
- 費用の分担に関する事項
- 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
- 費用分担や所有権の帰属は各区分所有者の衡平を損なわないように定める必要がある。
- 建替え決議では、次の事項を定めなければならない:
- 建替え決議のための集会招集手続(62条4項)
- 集会招集通知は、会日の少なくとも2ヵ月前に発出する必要がある。
- 通知の発送期間は規約で伸長可能だが、短縮は不可。
- 通常の集会よりも通知期間が長く設定されている。
- 集会の招集通知における通知事項(62条5項)
- 建替え決議の集会招集通知には、以下の事項も含めて通知する:
- 建替えを必要とする理由
- 建替えをしない場合の維持・回復に要する費用の額および内訳
- 建物の修繕計画がある場合、その内容
- 修繕積立金の額
- 建替え決議の集会招集通知には、以下の事項も含めて通知する:
- 説明会の開催(62条6項・7項)
- 集会招集者は、会日の少なくとも1ヵ月前までに説明会を開催しなければならない。
- 説明会の招集通知は、会日の1週間前までに発出しなければならない(短縮不可、規約で伸長可)。
- 全区分所有者の同意があれば招集手続は不要。
- 議事録の記載事項(62条8項)
- 建替え決議をした集会の議事録には、各区分所有者の賛否を記載する。
区分所有権等の売渡請求等(63条)
- 建替え参加の催告(63条1項~4項)
- 建替え決議成立後、集会招集者は遅滞なく不賛成者に対して建替え参加の催告を行い、書面で回答を求める。
- 催告を受けた不賛成者は、催告日から2ヵ月以内に回答しなければならない。
- 回答期限内に回答しない場合は、建替えに参加しないものとみなされる。
- 回答後、不参加から参加への変更は可能だが、参加から不参加への変更は不可。
- 区分所有権等の売渡請求権(63条5項)
- 建替え参加者および買受指定者は、建替え不参加者に対して区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できる。
- 売渡請求は、建物の取壊しと新建物の建築を可能とするための請求。
- 建物の明渡しに関する期限の許与(63条6項)
- 売渡請求権の行使により売買契約が成立し、相手方は専有部分の引渡し義務を負う。
- ただし、著しい困難が認められる場合、裁判所は1年を超えない範囲で明渡しの期限を許与できる。
- 再売渡請求(63条7項・8項)
- 建替え決議の日から2年以内に建物の取壊しが行われない場合、売渡請求を受けた者は、支払った代金に相当する金銭を提供し再売渡請求が可能。
- 正当な理由がある場合は再売渡請求は認められないが、理由が消失しても取壊しが行われない場合は再売渡請求が可能。
建替えに関する合意(64条)
- 建替え決議に賛成した区分所有者および買受指定者は、建替えを行う旨の合意をしたものとみなされる。
このように、建替え決議には厳格な要件と手続きが設けられており、各区分所有者の権利保護や合意形成が重視されています。